コラム

【現役日本語教師の正直インタビュー】日本語そのものを見つめてみてください。新しい発見はきっとあります

日本語教師養成講座 コラム

現役日本語教師にインタビュー!

外国籍で日本語教師として日本で働く先生にインタビュー

①日本語教師を目指したきっかけはなんですか?日本語教師になるまでには、どのような経緯がありましたか?

先生になることに憧れがありました。ちょうど日本のアニメが好きで、日本語専攻に入りました。先生になりたかったですし、日本語も勉強していましたし、日本語専攻で良い先生に出会ったのもあり、よしっ!日本語の先生になろう!という単純な発想でした。(笑)

②どうして今ここ(国内)で働くことを決めたんですか?

日本の方にとっては国内で働くことですが、私にとっては「海外で働く」です。
日本でも名の通る大学の大学院まで出ていますから、実際帰国して日本語の教師になれば、おそらく今よりいい給料で働けているのだろうと思います。
しかし、日本の生活のほうが性に合いますので、日本で快適に過ごせていますし、日本にいたいと思っています。
院のときにアルバイトで出会った学生たちはあまりにも日本の生活に苦労していたので、手助けというより「ロールモデル」になれないかと考えて、日本で働く、と決めました。

③今どのようなことを教えていますか?

初級から超級まで全部教えられます。
専任として日本語学校で教えていますので、それなりの幅は持っていると自負しております。 対面の授業もオンラインの授業もしています。
対面では初級中級の学生がほとんどで、主に対話中心の授業になります。
オンラインで日本語留学試験(EJU)に対応する日本語、進学のための志望理由書、研究計画書作成、出願サポート、面接対策など、進学中心の日本語を教えています。

④日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

大学院でさんざん鍛えられたので、実際現場に入ってみると、意外と苦労も戸惑いもあまりありませんでした。(笑)
しかし、外国人であることもあるので、「私の日本語で教えるの、本当に大丈夫なのか?」という不安に、大学院時代は押しつぶされそうになりました。技術的なことは学べばいいですが、母語でないことばをそのまま教えるのは、不安で不安で仕方なかったです。
結局日本語で日本の方といくら張り合っても勝てないので、学習者であり、学習者であったこそできることに集中しました。
自分が日本語を学ぶときに、何が難しかったか、それをどう克服したか、この段階の自分だったらどのくらいの日本語だったらわかるかなど、自分自身を振り返りながら進んでみたら、意外と苦労はありませんでした。

⑤「日本語教師をやってよかった!」と、どのような時に実感しますか?

自分自身がやってきたことの実践ですかね……。 最初は「ロールモデル」になればいいなと考えましたので、それなりに自分がやってきたことをいろいろと試してみました。
自分の経験を生かすことで、学生が100時間でEJUの点数90点以上伸ばせたことや、一年生の時にN3まで行かない学生たちを2年かけてGMARCHレベルの大学に送り出すなど、自分でも「おー私すごいじゃん!」と思える実績を出せました。
自分がやってきたことは、有効であって、間違わなかったということへの安心感、そして、たぶん、自分が「ロールモデル」にはなれて、学生たちが安心して日本で生きていけるという安堵があります。

⑥今後どのような日本語教師になりたいですか?また、これからやってみたいことはありますか?

研究し続ける日本語教師になりたいです。
日本語が下手で文法がまったくわからなかったので、大学院で日本語学の研究をしました。個人的には日本語学がおもしろくて、また研究することで日本語をよりクリアに見ることができるので、研究し続けたいです。
外国人だから、いくら日本語ができて日本語の先生をしていると言っても、日本人の「日本語の勘」はありません。
実際の授業でたくさんの素材を見ますが、語学的に分析することで、「日本語の勘」をなるべく排除して、日本語そのものを数学的に組み立てることができるので、よりわかりやすく授業を行うことができます。
また、学習者の日本語を分析することで、学生の問題点を見つけるができます。それらの問題点を自分の経験と照らし合わせることで、より効果的なアドバイスができます。
日本語は随時変化するものですし、学生のできることもニーズも随時変わるものです。研究することで、その流れに追いつけるような日本語教師でいたいです。

<授業・参考>

⑦教案・授業作りで参考にしているウェブサイトは?

よりわかりやすいアイディアを大切にしていますので、ウェブサイトはあまり見ません。
気をつけていることは二つです。
一つは、一方的に話すより、いかに学生に仕掛けるか、ということに集中して考えています。 「話すよりは質問する」「聞かせるよりは考えさせる」「わかるか?と聞くより、口頭で小テストを出してみる」など、とにかく話させる仕掛けを考えます。
もう一つは、いかに抽象的なものを具現化することです。わからないことばでわからないことばを学ぶことは至難です。だから、画像、動画などの素材、比較、実践などの手法を用いて、理解の手がかりを与える仕掛けを考えます。
私は今まで受けてきた良かったと思う日本語の授業をマネしてやりますが、皆様も今まで受けてきた外国語の授業を思い出してみて、実践してみてはいかがでしょうか。

⑧教案・授業作りで参考にしている書籍は?

日本語そのものに集中したいので、教え方の参考書というより、日本語の参考書をよく使います。
抽象的な内容を具現化する、という意味合いで、認知言語学系の参考書は役に立ちました。
「自然な日本語を教えるために―認知言語学をふまえて」(池上嘉彦、守屋 三千代 編著 ひつじ書房) は日本語の性質から日本語を分析していて、他言語と比較しながら日本語を見る部分もあるので、日本語の発想がよくわかる一冊です。

読解を教える際に、日本人の先生方は「日本語はこうだから」という「勘」に頼る部分が多いと感じていますが、我々外国人には「勘」はないので、いかに長い日本語の文章を刻むかが大事になってきます。
「ケーススタディ日本語の文章・談話」(寺村秀夫、佐久間まゆみ、杉戸清樹、半澤幹一 編集 おうふう出版) は分析的に日本語を刻みますので、すごく参考になります。
授業中の発話に関しては「OPI」に関するものを見ると、また参考になります。

<就職活動>

⑨他の教育機関と比較・検討しましたか?

外国人には選択権がありませんでした……(苦笑)
修士修了の私は、指導教員は引退、博士に進学できず、大学で教職につきたくても博士がないのでできませんでした。非常勤として勤めている日本語学校は定員割れで専任の内定が取り消されました。
ビザは特定活動で食いつないでいて、いつビザが切れて帰国させられてもおかしくないというほぼ八方ふさがりの状態でした。
日本語学校のほとんどは、履歴書で「外国籍」ということで、返事さえくれませんでした。
唯一返事が来たのは今働いている日本語学校です。「外国籍は受け付けられません。」という丁寧なご返信でしたが、「日本語学校なのに、外国籍だから受け入れられないって!」と悔しさで頭にきてケンカを売ってしまいました。(笑)
結果的に、ケンカを売られても受け入れてくれたありがた~い職場なので、今の学校でこつこつと働いています。

⑩日本語教師の求人について、どのようにお仕事を探しましたか?

外国人が日本で日本語教師になる、というのはかなり限られている職業選択なので、とても難しかったです。
外国籍だけで門前払いがほとんどでした。
片っ端からIndeedをあさって、履歴書を送りました。いったん面接に来てくださいという連絡が来たらラッキ~という状態でしたので、探すというより運試しでした。
行ったら行ったで「先例がないこと」なので、二回も三回も、日本人の方より多めの模擬授業回数が課せられ、映像がとられるなど、特別待遇をいただきました。(笑)

⑪模擬授業ではどのような課題が与えられましたか?

一校は『みんなの日本語』14課の「て形」、一校は『耳から覚える日本語能力試験文法トレーニング』からN3レベルの文法授業でした。両方とも教案提出必須で、約20分でした。
初回の模擬授業は先生が学生役で授業を行いました。
訂正意見をいただいてから、二回目の模擬授業は学生の前で行う模擬授業です。記憶があいまいですが、学生評価アンケートも取られたと記憶しています。
三回目の模擬授業もまた学生の前で行いますが、映像をとられるか、教務の専任教員のほかに学校の役員ほぼ総出で見学されるなど、たぶん日本人教員にはされない待遇をいろいろといただきました。

⑫就職活動で参考にしたウェブサイトは?

私は大学院時代の非常勤の時間を含めて日本語教師8年目、専任も5年目突入していますが、仕事を探している時代はほとんどのウェブが参考になりませんでした。なにせ外国人なので……。
いまは外国籍の日本語教師も増えていると聞きますので、おそらく状況は以前よりは良くなっているでしょう。

⑬日本語教師が国家資格化しますが、登録日本語教員の登録はする予定ですか?

大学院に入った年に日本語教育能力検定に合格し、また大学院は日本語教育専攻でした。
職歴もそれなりに重ねてきたので、日本語教師が国籍問わず国家資格化すると聞いたとき、「よっしゃ!私の時代がやっと来た!」とすごくワクワクしました(笑)
職歴と検定持ちで免除のEルートなので、なるはやで登録したいです。
国家資格を持つことで、就労ビザや永住権申請にも役立つので、より安心して日本で働けます。

⑭日本で日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

日本籍の方へ。日本語が母語であることはすごく強いです!「勘」があること、すごくうらやましいです。でも、日本語が母語であることも「勘で何となくわかるから授業で何とかなるでしょ」という怠慢を生みます。日本語そのものを見つめてみてください。新しい発見はきっとあります。 日本語に関する発見を外国人である私たちをシェアしてください。いっしょにコミュニケーションをとって、日本語を見つめることで、きっと先生も学生も新しい発見があり、わくわくするでしょう。

外国籍の方へ。日本語教師になって、日本語学校で教えるには、どうしても日本語が最優先です。いくらうまくやってきた学習経験があっても、日本語ができなければ、面接という初期段階さえ突破できません。日本語を日本の方よりよく見つめてください。力になります。

画像の説明
国内の日本語学校勤務 常勤講師 
Y.H.
中国で日本語専攻を履修し、東京の教育系国立大学で交換留学を経て、日本語教師になると意思を固める。日本語教育専攻の大学院を出て日本語教師デビュー! 大学院在学中には非常勤として英語を教えていたが、日本語教育能力検定に合格してから、英語と日本語を両方非常勤として勤務。 非常勤として3年、専任として5年、日本語教師歴は8年になります。 心がけていることは「日本人と日本語で力比べしないこと」「ある程度の日本語力をもって、学習者であり、学習者であった経験から自分のできるを見つけ出し、同じ道を辿ってきた同士として学生に向き合うこと」
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